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Angela


昔、アメリカ東海岸のバージニア州に”ジェームズタウン”という小さな町がありました。

アメリカ大陸にイギリス人が初めて入植した町です。

1619年8月20日。

嵐の中を一隻の帆船がジェームズタウンに到着しました。

イギリスの帆船、WHITE LION (ホワイト・ライオン)号です。

船には積荷に混じって、20人の黒人が乗っていました。

アンゴラから連れてこられた奴隷です。

この20人こそ、アメリカ大陸に初めて上陸したアフリカ系の黒人と言われています。

彼らは、まずアンゴラから、SAO JOAO BAUTISTA(サン・ジョアン・バウティスタ)号

というポルトガルの奴隷船に乗せられました。

一路大西洋を越えて、メキシコに向かいます。

船には400人くらいの奴隷が乗せられていました。

狭く、暗い船底に収容され、鎖に繋がれて身動きがとれない状態でした。

サン・ジョアン・バウティスタ号は大西洋上で、二隻のイギリス船と遭遇します。

その一隻が、ホワイト・ライオン号でした。

ここで戦いが始まります。

イギリスは、ポルトガルの金銀財宝を略奪するのが目的でした。

この戦いで、イギリスが勝利します。

洋上で戦利品が次々にポルトガルの船から積み出されます。

そこに、アンゴラからの黒人奴隷が含まれていました。

彼らは「戦利品」、つまり「品物」としてイギリス側に引き渡されました。

20人の黒人は、そのまま新大陸に連れて行かれます。

みなアンゴラで奴隷船に乗せられる前、カトリックの洗礼を受けていました。

つまり、全員キリスト教徒でした。

このため、新大陸に着くと、思わぬ運命が彼らを待っていました。

20人の黒人にはそれぞれ名前が付けられ、「召使い」の仕事が与えられました。

彼らは「人間」として扱われ、白人の召使いの間に中にはいって働き始めました。

その中に”アンジェラ"と呼ばれていた一人の女性もいました。

ANGOLAの”O"を”E"にかえた、ANGELA (アンジェラ)という名前でした。

アンジェラは、ジェームズタウンに住むウィリアム・ピアース船長(Captain

William Peirce)の家の召使として働いていた、と6年後の記録に残っています。

その後20人の黒人は召使から、自由の身になったそうです。

アンジェラはその後、どのような人生を歩んだかは、定かではありません。

おそらく苦難の人生だったと思いますが、ポルトガルに囚われたときに失いかけた

生命と尊厳を取り戻せた喜びをかみしめながら、生き抜いたに違い有りません。

先日、アンゴラの奴隷博物館に行ってみました。

ここから奴隷はみな頭数と体格で識別されて、大西洋の彼方に消えていきました。

ふと博物館の床の片隅に、きれいな野草が生けてあることに気がつきました。

目立たず、ひっそりと置かれていました。

残念ながら、ここにはアンジェラの記録は残っていませんでしたが、

その野草に、彼女の面影が重なって見えました。


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