Adagio
アフリカの夕暮れは雄大で神秘的です。
空が赤く染まりながら、暗闇に包まれていきます。
そして、アフリカの大地は、ゆっくりと深い夜の眠りにつきます。
他の地球上の夕暮れとは一味違う色合いと、深い奥行きがあります。
ところで、モーツァルトのクラリネット協奏曲イ長調(K622)をご存知でしょうか。
1791年に、わずか1週間で書き上げた、クラリネットの名曲です。
中でも、第二楽章「アダージョ(Adagio)」は、不思議とアフリカの夕暮れを連想させます。
これは、アカデミー作品賞など7部門を受賞した”Out of Africa"(1985年公開、邦題:
”愛と哀しみの果てに”)の主題曲にもなりました。
K622は、普通のクラリネットより三度階低い音域まで出せるバセット・クラリネット
(Basset Clarinet)と呼ばれる特殊なクラリネットのために書かれた曲です。
「アダージョ(Adagio)」では、高音、中音、低音すべての音域が使い尽くされていて
クラリネット独特の、音域の違いによる音色の違いまで見事に表現しています。
K622は、モーツァルトが書いた最後の協奏曲でした。
完成させた2ヵ月後に、モーツァルトは永い眠りにつきました。
アフリカの大地を踏むことはなかったモーツァルトですが、
目を閉じて聞くと、アフリカの夕暮れのように、
その生涯を閉じようとしていたことを、感じます。